Place : 東信地区
Family : 1人
緑濃い別荘地。小径から木々に包まれたアプローチの先を見ると、目線の少し上に、片流れ屋根の邸宅が浮かび上がるように見えてきます。
「アマン京都みたいな家にしたかったんです」——そう話すのは、この家に暮らすMさん。塗り壁とスギ板という異なる素材を黒一色に塗った外壁は、光の当たり方によって、微妙に表情を変えていきます。少しずつ高さが違う3つのウッドデッキには、緑を眺めてくつろげるソファとテーブル、そしてファイヤーピットが。まさしく、静謐な森に立つラグジュアリーホテルのような趣です。

夕暮れどき、テラスのソファでビールと葉巻を嗜むのがMさんの楽しみ。

敷地の奥に向かって緩やかに高くなっていて、通りから見ると、森の中に家が浮かんでいるよう。黒と緑のコントラストが美しく、ライティングが幻想的にその姿を映し出す。
玄関を開けると一転して、真っ白なタイル張りのエントランスホール。ガラス扉の先には、天井高7mもの圧倒的な大空間が広がっています。正面のキッチンの窓からも、南側の大きな開口部からも、見えるのはまばゆい緑だけ。窓を開ければ、野鳥のさえずりが耳に心地よく、家にいながらにして森林浴を楽しんでいるかのよう。夏は庇で日が遮られて涼しく、冬は日差しがたっぷり注ぐリビング。極上の癒しの空間です。
以前は東京で賃貸のタワーマンションに住んでいたMさん。老後は田舎で暮らしたいねと、生前の妻とときどき訪れていた信州を新たな人生の舞台に。妻の思いが随所に込められたこの住まいで、今、穏やかな日々を過ごしています。

1階の床は70cm角の大きなタイル。Mさんが東京のショールームで見つけたものだ。「ほかにも、窓はYKKにしたいとか、キッチンと洗面台はIKEAの代理店に施工してもらいたいとか。いろいろとお願いしたのですが、リアライズさんは嫌な顔一つせず対応してくださり、ありがたかったです」

カーテンはつけずに、窓からの眺めを楽しむ。
土地を購入し、ビルダーもほぼ決めていたMさんですが、「ウッドショックの始まりの頃で、見積もり額が驚くほど上がってしまって。そんなとき偶然見つけた建売住宅のデザインが気に入り、そこを手がけたリアライズさんに、家づくりを依頼することにしたのです」。
敷地に生えていた木々は極力残し、森の中に家が佇んでいるように。1階中心のシンプルな間取りに、吹き抜けと大きな窓が開放感をもたらします。屋根勾配に沿わせて見えなくした登り梁で、空間はよりすっきりと。薪ストーブと階段、タイル壁の織りなす光と影が美しく、どこを取っても絵になる住まいです。

薪ストーブはノルウェー・ヨツール社製。冬は床暖房も稼働させ、暖かく。

シンガポールに住んでいたこともあるMさん。家具やインテリアのセンスが光る。

リビングから続くデッキに加え、住みながら2つのデッキを増設した。

階段を上がった先はフリースペース。生前、妻はここから階下を眺めるのが好きだったという。
一方、ダイニングとキッチンは天井が低く、落ち着いた空間。週2日は東京の会社に通い、3日は在宅で仕事をするMさんは、ダイニングをワークスペースとして活用しています。仕事を終えたら、照明を落として好きな音楽をかけ、リビングのバタフライチェアやテラスで過ごすのがお気に入り。「東京ではどこにいても人の気配があった。今は本当に静かな場所で、気持ちよく暮らせていると感じています」。昔からここに根ざす木々は、お金では手に入らないもの。そんな贅沢な森の家での時間を、心から慈しんでいます。

キッチンで仕事をするMさん。顔を上げれば緑が目に飛び込む。「秋は黄色に色づき、冬はモミの木と松以外は葉が落ちて、月が見えるんですよ」

シックなダイニング。ここからもテラスに出られる。

Mさんが庭に植えた山椒の木が生長し、葉からは鮮やかな香りが。

扉の先は寝室。玄関からクローゼット、洗面室、そして階段裏を通って寝室へと、回遊できる動線が気に入っている。

壁に映る陰影がアートのよう。壁に立て掛けた大きなミラーは、シンガポールから持ってきたもの。「鏡のおかげで部屋が広く見えます」
著作権について
このページに記載されている記事本文、写真等は「住まいnet信州」VOL.45より転載しています。