Place : 軽井沢町
Family : 夫婦、子ども 1 人
東京から軽井沢への移住を考えていたTさん家族の背中を押したのは、森を眺める平屋の住まい。空間はコンパクトなのに、心までゆったりとした時間を紡いでいます。いつも森が隣にある暮らしを聞きました。
東京から軽井沢へ2023年に移住したTさんご家族。愛用の丸いダイニングテーブルからは森がよく見える。
設計は軽井沢を拠点とするリアライズ。台形の敷地に沿った形の住まいはエントランスホールからゆったり。奥に広がるリビングへの期待が高まる。
「窓辺に立つと、森の中にいるみたい。自然の近くで暮らしたかったけれど、子どもがいるから利便性も大切にしたくて。ここでは、両方とも叶った気がします」
都内の企業でITコンサルタントとして働くご主人とデザイナーとして働く奥様、小学生の娘さんが暮らすのは、緑を眺める軽井沢の平屋。普段は自宅で夫妻それぞれリモートワークをし、月に数回、新幹線で東京のオフィスへ。自宅から歩いて5分の場所にローカル線の駅があり、「家からオフィスまでドアtoドアで2時間かからないぐらい」という便利な環境です。
移住するまではおよそ20年、東京暮らし。住み慣れた環境から新天地へと移住を決めたきっかけは、娘さんの小学校入学でした。「軽井沢の私立学校に興味をもって、自然の中でのびのび育てられたらと教育移住を考え始めました。けれど調べるうちにだんだん私たち親の方が“軽井沢に住みたい!”という思いが強くなって(笑)、家探しを始めたんです」
リビングの壁面は上質な石目調のタイル張り。「自分たちでは選べなかった素材。とても気に入っています」とご夫妻。愛用のソファも空間になじんで。
見せて収納する家電はキッチンの天板に合わせて黒をチョイス。
傾斜する天井は最大4mと伸びやか。表した柱と梁の表面にはすべて、粗い削り痕を残した「なぐり加工」が施され、モダンな空間のスパイスに。
隣地の森に面して高さ2.4mの大きな窓を連続させることで、室内にいても森とつながった感覚に。オープンキッチンは下がり天井でゾーニング。
変形プランだからこそ、空間にゆとりが生まれている。アイランド型カウンターの周りを回遊できるレイアウト。娘さんが窓辺やテラスで遊ぶ姿を眺めながら料理することも。
移住の決定打が、この住まいと出合ったこと。建売住宅として売り出されていたコンパクトな平屋は、通学にも出社にも買い物にも便利な住宅地に位置しています。しかし室内に入ると、目の前には一面の森。聴こえるのは鳥の声と梢が風に揺れる音。大きな窓から射し込む木漏れ日が、軽井沢という場所の豊かさを物語っていました。「入った瞬間にものすごく開放感があったんですよね。ここで暮らすイメージも、不思議とすぐに湧きました」
敷地は三角形に近い台形で、一見すると住宅には不利な条件。一方で隣に豊かな森が広がり、建物が建つ可能性はほぼないため借景に恵まれていました。その条件を生かして、外からは想像もつかない幻想的な空間が室内に広がっているのです。
敷地に沿った台形のおおらかなリビング&ダイニングキッチンは、森に面して連続 する大きな窓により視線が抜け、自然と奥へ足を進めたくなります。柱や梁を表し、屋根に沿って天井が傾斜するダイナミックな空間は平屋ならでは。
奥様が気に入っているのは、二面を窓に囲まれたアイランド型キッチンです。時間で微細に色を変える森や空を眺めながらキッチンに立つ時間は、慌ただしい日常の中でふと季節に気持ちを向けてくれます。ゆったり回遊できるキッチンで、家族や友人と料理を楽しむのも軽井沢に住んでからの変化でした。
「リラックスして仕事をしたい」と、奥様のリモートワークはソファが定位置。
東京の住まいから愛用しているテーブル。
娘さんと一緒にキッチンに並んでもゆとりの広さ。黒は自分で選ぶとなると敬遠してしまいがちだが、軽井沢での経験が豊富なリアライズによる設計だからこそ空間に適度なラグジュアリー感が生まれ、満足度は抜群。
キッチンの奥には広いデッキテラス。森を眺めて朝食をとったり、照明があるので夜は花火も楽しめる。
玄関に回らなくてもテラスを通じてすぐに外へ出られるから子どもたちにも大好評。
東京でも戸建て住宅で暮らしていたTさんご家族。でも「住宅密集地で狭くて庭もなく、物足りなかったんです」。この住まいに引っ越して驚いたのが、面積以上に奥行きを感じることでした。まわりに広がる森を大きな窓から眺めることで、室内外を一体に感じられるからなのでしょう。
森に面してデッキテラスが住まいをL字型にぐるりと取り囲み、リビングやキッチンの窓からいつでも外に出られる設計。テラスといえばBBQやサウナなどアクティビティをイメージしますが、この住まいが教えてくれるのは、特段何もしなくても外で過ごす時間の心地よさ。娘さんは室内外を行き来して遊び、家族でデッキに腰かけてたわいもない話をすることも。雨に濡れる木々を眺めたり日没前の空のグラデーションを観察したり、夜は室内ながら露天風呂をイメージしたバスタブに身をゆだねれば、目の前にはテラス越しにライトアップされた幻想的な森。自然との一体感を日常的にもたらしてくれる半屋外空間は、軽井沢で暮らす醍醐味です。
「窓を開け放つと、森からの風が室内を通り抜けて気持ちがいい。この夏、クーラーはほぼ使いませんでした」
ご主人は移住してからガーデニングが趣味に。毎朝庭で手入れをするのが日課です。モミジとヤマボウシのまわりに好きな植物を植えて、季節の表情を楽しんでいます。
雨の日も、森はみずみずしい空気で気持ちがいい。
子供部屋。柔らかな光が降ってくるトップライトの下がお気に入りの場所。
日中はそれぞれの空間でリモートワークに集中するご夫妻。キッチンの奥はご主人の仕事部屋。開放的なリビング&ダイニングと対照的に、光が絞られた空間で集中できる。サーフボードやギターといった趣味のアイテムも。
仕事の合間にコーヒーを淹れて一息。
ITコンサルタント業のご主人。リモートワークがしやすい職種であることも移住の後押しになった。都内のオフィスに月に一度通う。
奥様がデザインを仕事にしていることもあり、建売住宅ではなく、自分たちでゼロからつくる注文住宅を考えたこともありました。けれど「自分たちで考えたらこれ以上の家をつくれなかった」とご夫妻。それほど、この住まいに満足しています。
「流行に左右されない、軽井沢らしいところがいいですよね。ユニークな形なのに奇抜じゃなく、基本はシンプルでモダン。梁や柱を見せることでナチュラルな表情もあるし、サッシやキッチンの黒で引き締めているのもいい。自分で選ぶとその時に好きなテイストやトレンドに引っ張られそうだけど、この家にはスタンダードな魅力があるから、歳を重ねても飽きることがないと思います。旅先で素敵なホテルに泊まっても、“家の方がいいね”って話すんですよ」。軽井沢で過ごす時間を、心から慈しんでいます。
北から光が回り込む寝室。コンパクトな平屋ながら三つの個室があり、ライフステージによって使い分けができる。
キッチン背面には引き戸で隠せるパントリー。収納が広く設計されているため、オープンキッチンもすっきりと保てる。
毎日使う洗面室はゆったりと設計。
庭の一角は和の趣にしつらえ、和モダンのファサードに調和させた。
軽井沢に住んでからガーデニングが趣味になったご主人。毎日、植物の様子を見るのが日課になった。
野趣あふれる隣地の森と対照的に、玄関の隣には端正にデザインされた庭。ご主人が好きな植物を買って植えている。
住まいの最奥にあるテラスは、まるで森の小道のよう。夜は木々がライトアップされ、その光景をバスルームから眺められる。
都市の生活から森暮らしへ。環境の変化に少なからず不安もあったからこそ、大自然の真ん中ではなく、生活に便利な住宅街を選択しました。便利さに加えてもう一つ良かったことが、ご近所に同世代の移住者ファミリーがたくさん暮らしていて、コミュニティができたこと。子どもたちがお互いの家を行き来するうち、親同士も仲良くなりました。休日は誰かの家に集まってBBQをしたり、親だけで集まってお酒を楽しんだり。「移住して、子どもは学校でコミュニティができるけど、自宅でリモートワークをしている大人はなかなか知り合いができませんよね。子どもをきっかけにこうしたコミュニティができたことがうれしいし、心強いです」
豊かな森を眺める「ちょうどいい環境」に選んだ住まいが、家族の新しい暮らしを心地よく包んでいます。
背の高い窓がスクリーンのように森のビューを切り取る。窓辺にゆったりと過ごせるスペースが設けられているのもこの住まいの魅力。
木製ルーバーが印象的な外観は、和モダンの落ち着いた雰囲気。背景の森とも調和している。
住宅街に立つ片流れ屋根のモダンな住まい。立体的に角度をつけた軒のエッジや軒裏の木材、南側に差し込むように設計した庇のラインが美しい造形を生む。
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このページに記載されている記事本文、写真等は「moves.」VOL.3より転載しています。